ビジネスシーンでは、時に依頼や提案、約束ごとをやむを得ず取り下げる場面があります。
そのようなときに求められるのが、相手に失礼のない形で意図を伝える「なかったことにする ビジネスメール」です。
単なるキャンセルや断りではなく、相手との信頼関係を損なわずに丁寧に伝えるには、言葉の選び方や構成に工夫が必要です。
本記事では、具体的な文例や場面別の注意点を交えながら、なかったことにする ビジネスメールの書き方をわかりやすく解説します。
- なかったことにする ビジネスメールの正しい意味と使い方
- 相手に失礼にならない表現や言い回しのコツ
- 社内・社外での適切なメールの書き分け方
- 状況別の具体的な文例とフォローの方法
なかったことにするビジネスメールの基本と心構え
状況 | 適切な表現例 | NG表現例 |
社外へ依頼を取り下げる時 | 誠に恐縮ですが、一旦取り下げさせていただきたく存じます | やっぱりやめます |
社内で会議をキャンセルする時 | 急な変更となり恐縮ですが、本日の会議は中止とさせてください | 会議、もう意味ないのでやめます |
こちらから依頼した内容を断る時 | お手数をおかけして申し訳ありませんが、本件は見送らせてください | もういいです、やらなくて大丈夫です |
提案に対して断る時 | ご提案はありがたく存じますが、今回は見送らせていただきます | 興味がないので結構です |
なかったことにするとは?ビジネスでの具体例

ビジネスにおいて「なかったことにする」とは、依頼や提案、約束などを何らかの理由で撤回・中止する意思を、相手に対して適切に伝えることを指します。
これは単なるキャンセルではなく、「信頼関係を損なわずに」意向を伝えることが求められる、非常に繊細なコミュニケーション行為です【1】。
例えば次のような場面が該当します。
- 社外への発注を途中で取りやめたい場合
- 一度お願いした依頼を断らざるを得ないとき
- 会議や商談の日程を変更したい場合
このようなやり取りにおいては、単なる「取り下げ」ではなく、相手の立場を想定し、失礼のない表現を心がけることが重要です。
相手に不快感を与えない表現のコツ

「なかったことにする」メールでは、相手に不快感を与えないために、まずは共感と感謝をしっかりと伝えることがポイントです。
また、「失礼いたしますが」「誠に勝手ながら」といったクッション表現や敬語の工夫も非常に効果的です【2】。
例えば次のような文面が考えられます。
「せっかくご対応いただいたところ、大変心苦しいのですが〜」
「ご尽力いただいていたにもかかわらず、誠に恐縮ですが〜」
このように、まず相手の労力を認め、謝意を示すことで、こちらの都合による変更であっても、印象を和らげることができます。
社外・社内で違う伝え方のポイント

社外向けのメールでは、「企業間の信頼維持」が非常に重要なため、形式的かつ丁寧な文体が求められます。
これに対して社内では、相手の役職や関係性によって、ややカジュアルに伝えても許容されることがあります。ただし、どちらにしても相手の立場を意識した言い回しが欠かせません【3】。
例えば社外向けでは、
「勝手を申し上げ恐縮ですが〜」
と始め、誠意と事情を説明した後、
「今後とも変わらぬご厚誼を賜りますようお願い申し上げます」
とフォローするのが一般的です。
社内向けでも、曖昧な表現よりも簡潔に意図を伝え、フォローの言葉を添えることが、スムーズな人間関係を保つ鍵になります。
項目 | 社外メール | 社内メール(目上) | 社内メール(同僚) |
書き出し | 平素より大変お世話になっております | お疲れ様です | お疲れさま、こんにちは など柔らかめ |
理由の述べ方 | 諸事情により〜 / 社内方針の変更により〜 | 担当部との調整の結果〜 | 予定が変わったため〜 |
結びの文 | 今後ともご厚誼を賜りますよう〜 | 引き続きよろしくお願いいたします | また調整しましょう、よろしくです |
やってはいけない言い回しとその理由

ビジネスメールでは、言葉一つで相手に不快感や不信感を与える可能性があるため、NG表現には十分な注意が必要です。
たとえば次のような表現は避けるべきです。
- 「やっぱりやめます」→ 軽率・無責任に見える
- 「仕方がないので」→ 相手を軽んじた印象になる
- 「〇〇のせいで〜」→ 責任転嫁と受け取られるおそれ
これらの言い回しは、相手の労力を軽視するように受け取られる可能性が高く、特に社外の相手には重大な悪印象を与える恐れがあります。
適切な敬語と謙譲表現を使うことで、相手への敬意を表し、関係維持につなげることができます【1】。
なかったことにするビジネスメールの文例と実践法
対応できない お詫び メールのスマートな書き方

対応が難しい旨を伝えるときは、まず理由を簡潔に伝え、謝罪と感謝を組み合わせた表現を心がけると、誠意が伝わります。
例:「誠に恐縮ではございますが、現在の状況では対応が難しい状況でございます。せっかくご相談いただきながら、このようなご案内となり申し訳ございません。」
このように、事実を丁寧に説明しつつ、相手の立場に配慮した表現が求められます。短い一文の中にも配慮の姿勢を盛り込むことで、ビジネスマナーとして評価されやすくなります【2】。
依頼を取り下げる メール 社外向けの例文と注意点

社外への依頼取り下げでは、誤解を避けるために「なぜ取り下げるのか」を明確に伝えることが大切です。そのうえで、相手に対する謝罪と感謝を添えることで、信頼関係を守ることができます。
例:「このたびご依頼申し上げておりました件につきまして、社内方針の変更により、一旦取り下げさせていただきたく存じます。ご準備をいただいていたところ、誠に申し訳ございません。」
特に「突然のお願い」になる場合には、メールの件名にも「お詫び」や「お願い」といった言葉を入れ、相手の印象を和らげる工夫が効果的です【1】。
こちらからお願いしておきながら 断る メールの対処法

自ら依頼しておきながら取り消す場面では、誠意とフォローが不可欠です。
相手の時間と労力を認め、申し訳なさを込めた表現で始めましょう。
例:「先日お願い申し上げた件につきまして、大変恐縮ながら、当方の都合により見送らせていただきたく存じます。お忙しい中ご対応をいただいておりましたこと、深く感謝申し上げます。」
その後、「今後もぜひご相談させていただければ幸いです」といったフォローを添えることで、関係維持の意志を明確にできます【3】。
やんわり断る メール 例文で伝える誠意

やんわりと断るには、相手を立てながら、自分の立場や状況を誠実に説明することがポイントです。
例:「お声がけいただきました件、誠にありがたく存じますが、現状の業務状況を鑑み、今回は辞退させていただきたく存じます。」
ここで重要なのは、あくまで「状況による判断」であり、相手を否定しているわけではないことを明確にすることです。過度に言い訳がましくならない範囲で理由を伝えると、信頼関係を保ちやすくなります。
締めの一文で関係を保つフォロー文とは

ビジネスメールの締めでは、相手との今後の関係を示す言葉が効果的です。
特に「なかったことにする」内容を伝えた後には、信頼維持の姿勢を見せることが求められます。
例:「今後とも変わらぬご厚誼を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。」
あるいは「また改めてご相談させていただければと存じます。」
こうした一文を加えるだけで、相手に与える印象が大きく変わります。内容の撤回だけで終わらせず、次につなげる表現を心がけましょう【2】。
なかったことにするビジネスメール例文集 まとめ
- 「なかったことにする」とは依頼や提案などを丁寧に撤回する行為
- 単なる中止ではなく信頼関係を保つ配慮が必要
- 共感や感謝の言葉を添えることで印象が柔らかくなる
- 社外には丁寧で形式的な文体、社内は関係性に応じた対応が求められる
- 「やっぱりやめます」など軽率な言い回しは避けるべき
- 対応できない場合は理由・謝罪・感謝をセットで伝えるのが望ましい
- 依頼取り下げは理由を明確にし、準備への謝意も忘れない
- 自分からの依頼を断る場合は特に誠意とフォローが重要
- やんわり断るには曖昧すぎず前向きな表現を意識する
- 締めの一文で今後の関係維持の意志を示すことが効果的
参考文献
【1】ビジネスメールにおけるメタ言語表現から読み取れる待遇意識(J-STAGE)
【2】日本語によるビジネスEメールの配慮言語行動(business-japanese.net)
【3】コミュニケーション行為としての日本語ビジネスメールに関する研究(早稲田大学リポジトリ)
