取引先や上司が体調を崩したという連絡を受けたとき、すぐに気の利いた返信ができるかどうかでビジネスパーソンの資質が問われます。相手を心配する気持ちはあるものの、お大事になさってくださいビジネスメールを送る際に、どのような言葉を選べば失礼にならないか悩むことは少なくありません。特に目上の方への言葉遣いや、返信の負担をかけないための配慮など、マナーの正解がわからず筆が止まってしまうこともあるはずです。この記事では、相手との関係性を深めるための正しい気遣いの表現や、状況に応じた具体的なメールの書き方を解説します。
- 相手に好印象を与える正しい言葉選びとマナー
- 目上の人や取引先にも使える状況別の丁寧な例文
- 相手の負担を減らす返信不要のスマートな伝え方
- ビジネスにおける信頼関係を構築する気遣いの技術
心が伝わるお大事になさってくださいビジネスメールの基本
体調不良の相手を気遣うメールを送る重要性

アカネうぅ、業務連絡だけじゃ冷たいですかね…?



ふふ、そこに『気遣い』をひとさじ加えるのがポイントよ
ビジネスシーンにおいて、相手の体調不良を知った際に送るお見舞いメールは、単なる業務連絡以上の重要な役割を果たします。業務の進捗確認やスケジュールの調整といった事務的な要件を伝えるだけであれば、冷たい印象を与えかねません。そこに相手の身を案じる一文を添えることは、円滑な人間関係を築くための潤滑油となります。
言語学の視点からビジネスメールを分析した研究によると、相手の領域を侵さないように配慮する「マイナスの配慮」だけでなく、相手に近づき親愛の情を示す**「プラスの配慮」が、信頼関係の構築には不可欠であるとされています【1】。つまり、業務上の用件(マイナスの配慮が必要な場面)に加え、体調を気遣う言葉(プラスの配慮)を適切に組み合わせることで、相手は「自分は大切にされている」**と感じ、書き手に対する信頼感を高めることにつながります。
特に相手が心身ともに弱っているときは、普段以上に言葉の温度感が伝わりやすいものです。忙しい業務の合間であっても、相手の状況を思いやる一言があるだけで、その後のビジネスパートナーとしての関係性はより強固なものになるでしょう。
目上の人にお大事になさってくださいと伝える際の注意点





目上の方には、もっと敬意を表す言葉が必要なんですね!



うむ、その心意気だ
「お大事になさってください」というフレーズは、丁寧語であり、上司や先輩といった目上の人に対して使用しても文法上の間違いではありません。相手の体をいたわる気持ちを表す言葉として広く定着しており、多くのビジネスシーンで許容されています。
しかし、受け取る相手によっては、「お大事に」という言葉に**「治療に専念しなさい」という指示的なニュアンス**や、軽い口語的な響きを感じる場合もゼロではありません。そのため、さらに敬意を払うべき相手や、非常にフォーマルなメールを送る場合には、より改まった表現を選ぶのが賢明です。
目上の人に送る際のポイントは、相手の現在の状況に配慮しつつ、敬いの気持ちを強調することです。例えば、メールの文末などで使用する場合は、単に「お大事に」とするのではなく、**「心よりお見舞い申し上げます」や「一日も早いご回復をお祈り申し上げます」**といった、祈りや願いの形をとる表現に変換することで、より謙虚で丁寧な印象を与えることができます。相手との距離感を見極め、言葉の重みを調整することが大切です。
状況に適したお大事になさってくださいの言い換え表現





さあ、すでに体調を崩している相手には、どの言葉を選ぶ?



えっと…『ご自愛』は元気な時だから…これだ!
「お大事になさってください」以外にも、相手の健康を気遣う表現はいくつか存在します。これらを状況や相手との関係性に応じて使い分けることで、より洗練されたビジネスメールになります。以下に代表的な言い換え表現とその特徴を整理します。
ご自愛ください
「ご自愛ください」は、「自分自身を大切にしてください」という意味を持ちます。主に手紙やメールの結び言葉として使用され、相手が現在健康である場合や、季節の変わり目などに体調を崩さないよう願う際に使われます。ただし、すでに体調を崩している人に対して使うと「体調管理ができていない」という皮肉に聞こえるリスクがあるため、使用には注意が必要です。すでに風邪などを引いている相手には不向きな表現と覚えておきましょう。
ご養生なさってください
「養生(ようじょう)」は、病気や怪我の回復に努めることを指します。「ご養生なさってください」は、すでに体調を崩している相手に対して**「治療に専念してゆっくり休んでください」**と伝える際に適した表現です。お大事になさってくださいよりも少し硬い表現であり、目上の人や取引先に対して使うのに適しています。
静養なさってください
「静養(せいよう)」は、病気や疲れを癒やすために静かに休むことを意味します。「ご静養なさってください」という表現は、入院中や自宅療養が必要な相手に対し、心身を休めることを第一に考えてほしいというメッセージを伝える際に有効です。特に、精神的な疲労や長期の療養が必要な場合に、相手に寄り添う言葉として機能します。
取引先へお大事になさってくださいビジネスメールを送る時





まずは相手に安心して休んでもらえるように…心を込めて!
取引先の担当者が体調不良であると知った場合、自社との業務に支障が出ることを懸念するよりも先に、相手を気遣う姿勢を見せることがマナーです。特に社外へのメールでは、礼儀正しさが会社の品格として評価されます。
まず、件名は相手が一目で内容を理解できるよう工夫が必要です。「【お見舞い】〇〇株式会社(自分の氏名)」のように、用件が明確な件名にします。もし業務連絡も兼ねている場合は、「【ご相談】〇〇の件につきまして(お大事になさってください)」のように、気遣いの言葉を件名に含めるのも一つのテクニックです。
本文では、相手が不在であることによる業務の停滞を責めるような表現は絶対に避けてください。「ご不在の間、大変かと存じますが」といったクッション言葉を挟みつつ、「急ぎの用件はございませんので」や「本件は〇〇様が復帰されてからで構いません」など、相手が安心して休めるような配慮の言葉を添えることが肝要です。相手に「迷惑をかけてしまった」という罪悪感を抱かせないよう、余裕を持った対応を心がけましょう。
相手の負担を減らすために返信不要と添える気遣い





相手の負担にならないように
体調が悪い時に、メールの返信を作成するのは大きな負担となります。相手を気遣って送ったはずのメールが、かえって相手に「返信しなければならない」というプレッシャーを与えてしまっては本末転倒です。そのため、お見舞いのメールを送る際は、返信が不要であることを明確に伝える配慮が求められます。
具体的には、メールの文末や件名に、相手が返信しなくて良い旨を記載します。**「なお、ご返信には及びません」や「お気遣いなく」**といったフレーズが一般的です。より丁寧かつ温かみを持たせるなら、「返信のお気遣いは無用ですので、今はゆっくりとお休みください」や「ご確認いただくだけで結構です」といった表現も効果的です。
また、署名欄の近くや追伸として記載することで、本文の用件と区別し、相手の目に留まりやすくする工夫も有効です。この「返信不要」の一言があるだけで、相手は心理的な負担から解放され、安心して療養に専念できるでしょう。これこそが、ビジネスメールにおける真の思いやりと言えます。
状況別のお大事になさってくださいビジネスメール例文集
コロナ感染時のお大事になさってくださいを含む例文





あの、詳しい症状とか聞かなくていいんですか…?



ええ、そっと見守るのも大切な優しさなのよ
新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症にかかった相手へのメールでは、過度な詮索を避け、静かに回復を見守る姿勢が大切です。感染経路や詳しい症状を尋ねることは失礼にあたるため控えましょう。
【例文:取引先担当者が感染した場合】
件名:【お見舞い】〇〇の件につきまして(株式会社△△ 田中)
〇〇株式会社
営業部 佐藤様
平素は大変お世話になっております。
株式会社△△の田中でございます。
この度は、ご体調を崩されたと伺い、大変驚いております。
流行り病ですので、どなたも避けようがないこととは存じますが、
佐藤様におかれましては、さぞお辛いことと拝察いたします。
進行中のプロジェクトにつきましては、
弊社側で調整可能な部分は進めておきますので、どうぞご安心ください。
何かご不明な点がございましたら、復帰後に改めてご相談させていただければと存じます。
まずは何よりも、ご養生を優先なさってください。
佐藤様の元気なお姿を拝見できる日を心待ちにしております。
なお、本メールへのご返信はお気遣い無用でございます。
どうぞ、お大事になさってください。
この例文では、相手の責任ではないことを示唆しつつ(「避けようがない」)、業務の心配を取り除く配慮を盛り込んでいます。
本人以外へお大事になさってくださいと伝える場合の配慮





看病している方を労う一言も、忘れてはいけないわ



そうか、支えている人も大変ですもんね。温かい言葉を添えます!
ビジネスパートナーの家族やお子様が体調を崩し、その看病のために相手が仕事を休むというケースも多々あります。この場合、「お大事に」と伝える対象は体調を崩している本人(家族)ですが、同時に看病にあたるビジネスパートナー自身への労いも忘れてはいけません。
このケースでは、「ご家族の皆様が一日も早く回復されますようお祈り申し上げます」というフレーズに加え、「〇〇様(ビジネスパートナー)におかれましても、看病でお疲れが出ませんようご自愛ください」といった言葉を添えるのが最適です。看病は肉体的にも精神的にも負担がかかるものです。その苦労を理解し、寄り添う姿勢を示すことで、相手は救われた気持ちになります。
また、相手が仕事を休むことに対して「ご家族を第一になさってください」と背中を押す言葉をかけることも重要です。仕事よりも家族を優先すべきだという社外からの後押しは、休みを取る罪悪感を軽減させる効果があります。
怪我や入院をした相手へのメールの書き方





入院中はスマホを見るのも大変かも。短く、負担をかけないように…
怪我や病気で入院している相手へのメールは、特に慎重さが求められます。励ますつもりで使いがちな**「頑張ってください」という言葉は、すでに病気と闘っている相手にとってはプレッシャーや負担になることがあるため、避けるのが無難**です。
入院中は、スマートフォンやPCの確認が難しい場合もあります。そのため、メールの内容は短く簡潔にし、スクロールせずに読める程度の長さに留めるのがマナーです。
【例文:入院中の上司へ送る場合】
件名:お見舞い申し上げます(氏名)
〇〇部長
お疲れ様です。△△です。
この度は急なご入院と伺い、部員一同、大変心配しております。
不在中の業務につきましては、〇〇課長と連携し、
滞りなく進めておりますので、どうぞご安心ください。
今は一日も早いご回復に向けて、治療に専念なさってください。
メールでのご連絡となり恐縮ですが、
まずは略儀ながらお見舞い申し上げます。
なお、ご返信には及びません。
このように、現場は回っているという安心材料を提供し、「治療に専念してほしい」というメッセージを核に据えることが重要です。
アポイントの延期や業務連絡を兼ねる際のポイント





こちらから延期を提案して、相手を焦らせないことが大切よ
相手の体調不良により、予定していた打ち合わせや会議を延期(リスケジュール)せざるを得ない場合、事務的な日程変更の連絡だけを行うのは冷淡です。まずは相手の体を気遣う言葉を述べ、その後に業務の話へと繋げる構成にします。
ポイントは、延期の提案をこちらから積極的に行うことです。「もしご体調が優れないようでしたら、日程を改めさせていただけますでしょうか」と切り出すよりも、「こちらは急ぎませんので、日程を延期いたしましょう」と断定的に提案するほうが、相手は判断の負担から解放されます。
また、具体的な代替日程の提示は、相手が回復してから行うのがマナーです。「ご回復されましたら、またご都合の良い日時をお知らせいただけますと幸いです」としておけば、相手を焦らせることなく、復帰のタイミングを相手自身に委ねることができます。「アポイントのことは気にせず、まずはゆっくり休んでください」というメッセージが伝わるように心がけましょう。
復帰時にお見舞いメールへの返信をする際のマナー





皆さんのおかげで、気遣いの心、少し分かりました!感謝の気持ちでいっぱいです!



ふふ、よく頑張ったわね。それが一番大切なことよ
逆に、自分が体調不良から復帰した際、不在中に受け取ったお見舞いメールに対してどう返信するかも重要です。復帰後の第一声では、心配をかけたことへの謝罪よりも、気にかけてくれたことへの感謝を伝える方が、ポジティブな印象を与えます。
「ご心配をおかけしました」という言葉も定型ですが、「温かいお気遣いのメールをいただき、大変励みになりました」や「おかげさまで無事に回復し、本日から業務に復帰いたしました」と伝えることで、相手の配慮に対する感謝がより伝わります。
また、不在中に業務をフォローしてもらった場合は、その具体的な感謝も忘れずに添えましょう。「不在中は〇〇の件でご対応いただき、誠にありがとうございました」と具体的に言及することで、チームワークやパートナーシップが再確認され、スムーズに業務に戻ることができます。
信頼が深まるお大事になさってくださいビジネスメール
- 体調不良の相手へのメールは信頼構築の好機
- 用件だけでなく相手を気遣うプラスの配慮が鍵
- 目上の人にはご自愛やご養生などの表現を選ぶ
- 相手に返信させないよう明確に返信不要と記す
- 取引先へは業務の安心材料とセットで送る
- コロナ等の感染症では過度な詮索を避ける
- 看病をする相手自身の疲れを労う言葉を添える
- 入院中の相手には頑張れではなく回復を祈る
- アポ延期は相手の判断を待たずにこちらから提案
- 復帰時は謝罪よりも感謝を伝えてポジティブに
- クッション言葉を活用し冷たい印象を防ぐ
- 件名に気遣いを入れて開封前の安心感を作る
- 状況に応じた言い換えで教養と誠意を示す
- 相手の罪悪感を消す言葉選びがプロのマナー
- 正しい気遣いメールは長期的な関係を育てる
参考文献
参考文献 【1】橋本 ゆかり, 李 慈姫. “ビジネスメールにおける日本語の対人配慮の示し方”. [https://swu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=163&file_id=22&file_no=1]


